他人が見ている前で“勃起不全”を確認… 中世の離婚を迫られた男性が受けた「強烈な辱め」

中世のイギリスでは、妻が離婚を申し立てることのできるほとんど唯一の理由が、「夫のインポテンス」だった。しかし、当時の裁判所が実際にインポテンスかを確かめる方法は、我々の想像をはるかに絶するほど、男性にとっては恥ずかしいものだった……。

1370年、テディア・ランバードは夫のインポテンスを理由に、ジョン・ソーンダーソンとの離婚を申し立てた。次のステップとして、彼女はそれを証明しなければならなかった。幸運なことに、彼女には証人となってくれる目撃者がいた。 重要な証人となってくれた人物のひとりは、スティーブンの息子のトマスだった。トマスは教会裁判所で、この夫婦がある春の朝9時前頃に、ジョンの父が所有する小屋でセックスしようとしたが、うまくいかなかったと証言した。 テディアとジョンは「情熱的に性交渉をしようとしていたにもかかわらず、ジョンの陰茎は下がっていき、どうやっても勃起することはなかった」という場面を自分が目撃した、とトマスは証言した。 さらに、彼は次のように主張した。ジョンの兄もまた、弟夫婦がセックスに失敗するこの場面を目撃しており、兄はジョンのペニスを自らの手で擦って弟を助けようとした、と。 要約するとこうだ。ジョン・ソーンダーソンはある朝、2人の男性の観客を前に、小屋で妻とセックスしようと試みたが失敗した。さらに、自分の兄にペニスを刺激してもらったが、無駄に終わった。 このトマスの衝撃的な証言のおかげで、テディアは裁判に勝利したのだった。

インポテンスを確かめる驚きの方法

ひどいことのように思われるが、インポテンスを争点にした離婚裁判は、中世後期にいくつも確認されており、テディアとジョンのケースはそのうちのひとつにすぎない。現代でも、インポテンスはアメリカの一部の州を含む多くの場所で、離婚の理由として認められている。 中世において、インポテンスは女性が離婚を勝ち取ることのできる、数少ない理由のひとつだった。カトリック教会では、配偶者はお互いの性に対して「婚姻上の責務」を負う、と考えられていたからだ。 しかし、夫のインポテンスが事実かどうか確認し、女性側が結婚という聖なるものから逃れるために虚偽の主張をしているわけではない、ということを確実なものにするために、裁判所は複数の証人を求めた。 ──結局のところ、「女性とは元来、男性よりも信用できず、嘘をつく傾向が強い」と考えられていたのだ。 時には、こうした証人たちが「調査員」に近い役割を果たすこともあった。中世史研究者のブロナク・ケーンは、『中世後期、ヨークの教会裁判所における処女とインポテンス』(未邦訳)という著書のなかで、こうした裁判の事例を詳述している。 ケーンいわく、性器や胸にまつわる調査は被申立人の友人や隣人によっておこなわれ、教会裁判においてはこうした人々がインポテンスや処女、妊娠を判断していたという。 インポテンスを証明する裁判の場合、証人は既婚女性の知り合いや未亡人、あるいは地元のセックスワーカーなどが務めることが多かった。 彼女たちは裁判所から、被申立人男性の性機能を調べるよう言われるか、あるいは、インポテンスの疑いがある男性の前で自らの胸や性器を露出し、男性にビールや美味しいスナックを与え、キスをして、暖かい部屋で彼らのペニスを擦り、それが勃ち上がるがを調べるよう言われた。 しかし、証人が男性であることもあった。その場合、彼らは被申立人がセックスしようとするところを観察するか、時には被告人のペニスを自らの手で擦ってやり、その結果を裁判所に報告した。

医師が説く、中世のインポテンス対処法

中世後期のイングランドにおいて、インポテンスは男性にとっても女性にとっても、急を要する問題だった。当時書かれた複数の詩には、女性たちが集まり、大量のアルコールを飲みながらインポテンスの夫の悪口を言い、夫のたるんだペニスをうじ虫やカタツムリ、マルハナバチに喩えるといった場面が描かれている。 インポテンスの男性自身を語り手とした詩も存在する。彼らは自らのインポテンスを嘆き、性的能力を維持するためのアドバイスを送った。「汝らすべての恋人たち、我が言葉に耳を傾けよ。我も汝らが如く壮健なる日があればこそ」と、インポテンスになったある詩人は嘆いている。 フランスの外科医であり、当時の医学的権威であったギー・ド・ショーリアックは、インポテンスにはスパイスや、ワインに甘みとスパイスを加えたもの、温かいオイルが効くと説いた。そして、ウッドチップで起こした火の前で、ペニスを激しく擦ることを勧めた。 ショーリアックによると、男性の外科医はよく専門家として、離婚裁判の証人を依頼された。医者たちは、被申立人男性の「生殖に関わる部位」を検査したのち、彼を性的経験のある女性と同衾させ、事後、その女性に話を聞いたという。

「完璧な言い訳」を見破られた男性

1561年か62年のこと、マーガレット・アラットはインポテンスを理由に、夫リチャード・ピアソンとの離婚を申し立てた。リチャードは、自分たち夫婦は一度もセックスしたことがないと認めたものの、非常に具体的な理由を示したのだった。 彼は結婚式の夜、妻とセックスしようとしていたが、「性的な悦びを得る前に、自分自身(の陰茎)をたまたま傷つけてしまった」と証言した。彼は陰茎が自然に治るか確認するため、その後8週間はセックスを慎むことを決意した。 そうこうしているうちに、「彼が完全に治る前に」、リチャードが「男性が持っているはずの能力を持っていない」と、妻のマーガレットが皆に伝えてしまったのだ。 彼女がリチャードにセックスしようと持ちかけたとき、彼は「今の状態はあまり良くないけれど、しばらくすればきっと改善すると思う」と言った。それでリチャードは医者をたずね、特別な薬を出してもらった。ドリンクタイプのバイアグラのようなものだ。彼は「自分自身が治り、性欲があると認められる」まで、これを9日間、毎朝飲み続けた。 しかしそれまでに、彼はマーガレットと寝たい、という欲望を失ってしまったのだという。裁判において、彼は他の女性とセックスしたことがあり、彼女が身ごもったのが自分の子であると確信しているため、自分がインポテンスなどあるはずがないと言った。 教会裁判所がリチャードに、なぜ妻を裏切って不倫したのかと聞くと、「それまで一度も不倫したことはないが、妻がこのような誹謗中傷をしたからだ」と述べた。妻が彼をインポテンスだと公に非難したことで、彼には他の選択肢がなかったのだ、と。 この離婚裁判において重要な証人となったのは、夫婦の友人で44歳のエドワード・アメリーだった。エドワードはリチャードとともに、彼のインポテンスについて長時間話し合い、治療方法を調べてあげたという。 リチャードが医者にもらった飲み薬は効果を発揮せず、リチャードはいまだに寝室では「以前と同じことしかできない」と、エドワードは証言した。 インポテンスの疑いからマーガレットがリチャードに離婚を申し立てた際、彼は恥ずかしさのあまり逃げ出した。30マイル逃走したところで友人が彼を捕まえて家に連れ戻し、妻の申し立てと向きあうようにさせたのだ、とエドワードは述べた。

実は現代でも珍しくない「インポテンス離婚」

こうした裁判は、現代の我々が想像もしなかった形で、中世の人々が自分の性生活について率直かつオープンに語りあっていたことを示している。 当時の人々は、男性の家族同士や同居人、近所の人々と、互いの性器について話したり、見たり、比べたりしていただけでなく、教会裁判所の承認のもと、自らそれを握って擦ったりもしていたのだ。 また、こうした事例からは、当時の男性が医者や友人に対し、自分のインポテンスについて話すのを嫌がらなかったことも読み取れる。これは、インポテンスが多くの男性にとって、人には話せない事柄である現代とは大きく異なる。 共和党の上院議員ボブ・ドールが登場した1999年のバイアグラのCMなど、現代の勃起不全(ED)治療薬の広告を考えてみてほしい。ドールはCMで、男性たちにインポテンスは医者に相談するよう勧めているのだ。 ドールはアメリカ国旗を背景に、ネイビーのスーツを着て真面目な調子でこう話す。「ええ、EDについて話すのはちょっと恥ずかしいかもしれません。でも、私がそれをみなさんの前で話す決断をするほどに、インポテンスは何百万もの男性とそのパートナーにとって、重要な問題なのです」 だが、それから20年経っても、インポテンスの話題はいまだにタブーと考えられている。 また、インポテンスを理由に離婚を申し立てるというのは、我々が考えるほど中世に特有のものではない。現在でも、テネシー、ミシシッピ、アーカンソー、マサチューセッツ、アラバマ、ジョージアの各州では、インポテンスが離婚法の一部に盛り込まれている。 ただし今日の裁判所は、中世よりも慎重な態度で調査に臨む。現代では、証拠は調査員に直接確認させるのではなく、離婚を申し立てる夫婦に対し、インポテンスを証明する医療文書の提出を求めている。

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